宿木屋

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2022年からWebライターを目指さないほうがいい理由

2021年現在、インターネット上で文章を書いて収入を得る多くの人々が、「Webライター」と自称しています。Webメディアの興隆やSEO記事の増産などが、このWebライターへの需要を増やしたことで、Webライターの認知度は高まり、意図的に目指す人材も増えたようです。

このトレンドの背景には、フリーランスという働き方の認知度向上や、クラウドソーシングサービスの普及、さらにはコロナ禍でのリモートワーク浸透といった事象も関連しています。誰もが家で働ける時代という認識は、文章を書いて個人が収入を得ることの心理的ハードルを下げたのでしょう。

また、Webライターは働く側にとって極めて魅力的な仕事と認識されているようです。スキマ時間を活かして誰もが簡単に始められる。資格も要らず、文章さえ書ければ営業できる。そんな謳い文句が、ライティング講座やライターコンサルティングなどを営む事業者から発信されているのをよく見かけます。

Webライターの認知が広がり、Webライターの母数が増えた2018~2021年は、いわばWebライター戦国時代だったと振り返ることができるかもしれません。これを書いている筆者も、戦国時代の渦中を個人事業主として渡り歩き現在に至りますが、多くの同業者がいつの間にか業界から消えていました。一方で、次々とWebライターを名乗る人が新たに増えている印象も抱いており、Webライターが魅力的な仕事としてもてはやされるのを見るたび、どこかに違和感を覚えて首をかしげているのも事実です。

今回は、そんなWebライター業界について、今後どのような変化が訪れるのか、さまざまな観点から考察してみます。結論から先にいうと、Webライターへの需要は今後減っていく、あるいは偏っていくというのが筆者の予想です。ですから、今後Webライターになりたいと考えている未経験の方は慎重に考えてほしい、というのが正直なところです。筆者の経験や領域に基づいた考察となるため、やや偏った内容になるかもしれませんが、いくつかのトピックをもとにその理由を解説します。

企業によるWebメディア運用目的の変化

そもそも、企業が予算をかけてWebメディアを運用するのはなぜでしょうか。従来のWebメディアの多くは、商品やサービスへのコンバージョンを目的として運用されており、潜在顧客の購入動機を作り上げていくような構成の記事が好まれていました。また、検索上位に表示されることが記事コンテンツの価値基準であったため、Webライティングに携わる以上、SEO対策への配慮は多かれ少なかれ必要でした。

しかし、マーケティングに特化した記事制作と、検索上位を争う競争の激化は、コンテンツの品質低下や各記事のオリジナリティの喪失をもたらしました。そして、ユーザーに有益な情報を提供することを目的にアップデートされ続けるGoogleのアルゴリズムは、現在「オリジナリティやコンテンツの事実性を重視する」姿勢を示しています。

こうした流れを受け、企業によるWebメディア運用の方針や戦略は徐々に変わりつつあるようです。専門領域をもつ大企業のWebメディアは、専門家による監修と丁寧な情報精査を経た事実性の高いオリジナルコンテンツを制作しており、中小企業の運営するWebメディアもインタビューコンテンツなどの充実を目指す傾向が強まっています。

その結果、企業主体のWebメディアは運用主体のブランド力や理念を象徴するコンテンツを集めた場として機能しはじめており、それに伴ってコンテンツ制作のプロセスや人員も変化しているようです。企業理解と長期的戦略に基づいたコンテンツ制作が必要であるため、近年は社内にコンテンツ制作のプロたるインハウスエディターやライターを抱える企業が多くなってきています。

こうした傾向から、外部発注先としてのWebライターは徐々に需要が減少していく可能性が高いと考えています。特に、簡易な内容で少額報酬の記事を大量に書くタイプのWebライターは、需要そのものが減ることで今後厳しい戦いを迫られるでしょう。

専門領域やタレントをもつ副業・兼業ライターの台頭

Webライターは、基本的にはより多く読まれる記事を生み出すことが本人の市場価値に直結します。その点において、専門領域があったり、その人が書くことで一定数の読者を獲得できるタレントがあったりする人材は、それだけでWebライターとしての市場価値が高いと言えるでしょう。

例えば、医療業界で働きながらその専門領域の記事を書ける人材には、どんなリサーチを重ねても素人のコンテンツは叶いません。あるいは、はるか昔から個人ブログなどを通じてコンテンツ制作を続け、おもしろい記事を提供することでファンを増やしてきたライターと、「文章で稼ぎたい」という気もちが先行してコンテンツ制作すらしたことがない新参者のライターが、同じ土俵で戦うのは極めて困難です(あくまで同じ土俵ならば、の話です)。

Webメディアが事実に即した独自性の高いコンテンツを求めるようになればなるほど、それを書くライターにはハイレベルな知識や独創性、企画力などが求められるでしょう。そのため、今後のライター需要は業界特化の傾向が強まるとともに、企画・構成、取材や編集など、いわば”フルスタック”に対応できる人材に偏るのではないかと思います。したがって、ノンジャンルかつ「構成ができている状態で書くのみ」というスタンスのWebライターは、自分がどのように市場価値を出していくか、一度考えてみたほうが良いかもしれません。

インボイス制度の導入

最後に、2023年10月から導入されるインボイス制度について触れます。インボイス制度とは、簡単に言えば透明性の高い消費税納税を実現するための新制度です。公式の概要については、下記の国税庁のページをご覧ください。

インボイス制度の概要

本記事では、免税事業者であるWebライターを対象に、その影響について書きます。課税売上高が1,000万円以上のWebライターは下記の話については対象外ですので、読み飛ばしてください。

これまで免税事業者であるWebライター(=以降、売り手)に発注していた企業(=以降、買い手)は仕入税額控除を受けることができていましたが、インボイス制度導入後は、インボイス発行がない売り手からは控除を受けることができないため、仕入れにかかる消費税全額を納税しなければなりません。

こうなると、買い手側は税負担が大きくなるため、インボイスを発行できる事業者と取引したほうが良いと判断するのが自然です。あるいは、税負担が多くなるぶん原稿料から差し引いて負担を軽減しようと考えるでしょう。

「じゃあインボイスを発行すればいいのか」と思うかもしれませんが、残念ながら免税事業者はインボイスを発行する資格をもちません。細かな説明を省いてWebライター視点でまとめると、免税事業者であるWebライターは、「年間1,000万以上稼げるライターになってインボイスを発行するか」、「消費税分差し引かれた原稿料でこれまでと同じ仕事をするか」の二択を迫られる可能性が高いということです。

ただし、これはあくまで筆者の経験値でしかありませんが、年間1,000万以上を受注ライティング業のみでまじめに稼ごうとしたら、心か腰かどっちかやられると思います。ライティング商材販売とかオンラインサロン運営とか、何かしらとかけ合わせればなんとかいけるかもしれませんが……。

インボイス制度が導入されることで、おそらく専業Webライターの一部(あるいは多く)は最終的に撤退を余儀なくされるのではないでしょうか。そして、インハウスライターや一定以上の価格帯の仕事を獲得できるライターが生き残ると考えられます。

Webライター×フリーランス、新規参入はあまりおすすめしない

こうした予想から、未経験でWebライターを始め、なおかつ個人事業主として独立しようとしている人には、2022年以降はかなり厳しい戦いがまっているということを強くお伝えしたいです。どうしてもライターになりたいという強い気もちがあるのならば、フリーランスではなく、インハウスライターの採用をしている企業に勤めるほうが安泰です。また、もう少し広く、インターネット上の情報発信に興味があるのであれば、デジタルマーケティング系の企業に勤めるのもおすすめです。

また、単に在宅ワークがしたい、すきま時間で働きたいということであれば、Webライター業界のようなレッドオーシャンではなく、社会的な需要がある他業種にチャレンジすることをおすすめします。よほど書くことに執着しているか、情報整理力が高いかでないと、心身に相当な負担をかけるだけでなく、それ相応の報酬すらもらえません。

じゃあWebライターになることはもう叶わないのかと問われれば、決してそうとは言い切れません。さまざまな観点から見た状況が厳しくても、市場のニーズをつかんでいけば将来性はあると思います。どのような戦略を立てればWebライターとして生き抜いていけるのか、その予想はまた別の記事で書きます。

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