宿木屋

番茶じゃなくて晩茶です。徳島の家庭のお茶は乳酸発酵させた阿波晩茶

あなたにとって「なじみのあるお茶」といえば、何を思い浮かべるだろうか。筆者の場合は「晩茶」だ。といっても、晩茶を知っている人はきっと多くないだろう。晩茶というのは、国内でも希少な乳酸菌による後発酵茶で、徳島県だけで生産されているお茶だ。「阿波晩茶」と呼ばれることもあり、徳島の家庭ではよく飲まれるが、全国的にはまだまだ知名度が低い。百野 大地(ひゃくの だいち)さんは、そんな晩茶を徳島県の上勝(かみかつ)町で栽培しているお茶農家だ。

「農業って本当におもしろいんですよ。気候や栽培する場所など、さまざまな要素、ささいな要因で結果が大きく変わってきてしまう。それは難しいところでもありますが、理科の実験みたいな感覚で日々試行錯誤しながら楽しんでいます」

その口ぶりからは、農業と聞いてイメージする大変さはあまり感じられない。一方で百野さんが歩んできた道のりは、かなりチャレンジングだ。というのも、百野さんはもともと徳島の出身ではなく、2013年に大阪から徳島へ移住し、地域おこし協力隊としての活動を経て、お茶農家として独立したという経歴の持ち主。 農業に関する知識や経験がほとんどないところからスタートしながらも、すでに独立して4年が経過。上勝町の晩茶市場に新風を巻き起こしているといってもいい活躍ぶりである。

ここで少し、上勝町と晩茶について説明を加えよう。上勝町は徳島の中部に位置する山間の町で、人口は約1500人。高齢者の割合が多く、過疎化が進んでいる、徳島県の中でも田舎に分類される場所だ。

名産品としては柚子や椎茸などがあり、晩茶もその一つ。特に晩茶は上勝町と隣の那賀町くらいでしか生産されていないということで、徳島県民の中には「晩茶といえば上勝」というイメージを持っている人も少なくない。

すでに乳酸発酵させたお茶であることは述べたが、晩茶の大きな特徴としては、カフェインが緑茶の3分の1ほどしか入っていないという点が挙げられる。そのため、妊婦や乳幼児でも飲むことができる。また、「晩に飲んでもよく眠れるから大丈夫」という意味で「晩茶」と呼ばれるようになったとも言われている(こちらは諸説あり)。

晩茶は7月中旬から茶摘みが始まり、一般的なお茶の製作工程に見られる「蒸す」という作業の代わりに「釜茹で」が行われる。その後、摺った茶葉を桶の中で2〜3週間ほど漬け込んで発酵させるため、「漬物茶」ということもあるそうだ。発酵が終わると、天日干しを経て秋口には完成する。

「飲み慣れれば問題ありませんが、最初に飲んだ時はその酸味に驚きました」と百野さん本人も言うくらい特徴的な酸味がある。しかし、その味わいはどことなく懐かしさがあり、くせになるおいしさだ。さらに、最近では健康茶として注目を集めている。腸内環境の改善や、花粉症といったアレルギー症状の緩和効果もあるそうだ。

百野さんの晩茶は、ご自身のサイト「Kamikatsu-TeaMate」で購入可能。気になった方は、ぜひ一度飲んでみてほしい。

なお、その販売サイト内でも、百野さんのチャレンジ精神が見られるポイントがある。それは取り扱っているお茶の種類の豊富さだ。種類といっても全て晩茶であるが、多くの農家から茶葉を買い取り、百野さんが販売しているのだ。商品一覧を見てみると、「晩茶農家飲み比べセット」という珍しいものもある。

「上勝の晩茶と一口に言っても、農家それぞれの栽培方法や発酵の仕方があって、味わいが違うんです。うちの晩茶は酸味がそこまでなくさっぱりとした味わいが特徴ですが、ほかにも渋みや苦味をより強く楽しめるものもあるので、飲み比べてご自身の好みの晩茶をぜひ見つけてください」と力説する百野さん。その思いが、商品のラインナップに表れているのだ。

Webサイト内には商品の特徴だけでなく、栽培している場所の標高や発酵させる期間、栽培した人などの詳細なデータがまとめられている。それらを参考にして商品を選べるのは、買う側としても安心できるポイントだ。商品を決められない場合には、電話での相談も可能。いわば晩茶のプロでもある百野さんに意見を聞けると、初めて晩茶を購入する人も安心だろう。

ほかにも「食べる晩茶」をテーマに作った晩茶パウダーや、web会議ツールを使った「オンラインお茶席付き茶葉」など、ユニークな商品が展開されている。

「これまでは地域のお茶として徳島で飲まれてきた晩茶ですが、お茶を淹れて飲む人も減っていますし、晩茶農家の後継ぎのことなども問題視されています。今後は、県外の人も徳島の晩茶を飲んでくれるようにPRして、生産農家の存続も気にかけないといけないと感じます。最近は、知名度アップのために県外でのイベントに出店したり、上勝町の移住促進関連のプログラムに協力したりと、さまざまなことに注力していますね。多岐にわたる仕事は大変ですが、晩茶はそのくらいの苦労をしてでも残していきたいものなので、これからも自分にできることをしていきたいです」

百野さんのこうした活動が功を奏し、Kamikatsu-TeaMateでは年々県外からの注文も増えているそうだ。

百野さんの強靭なチャレンジ精神と飽くなき探究心によって、徳島の晩茶が全国どこでも楽しめる日は案外近いのかもしれない。晩茶を愛飲するひとりのファンとして、その動向には今後も注目していきたい。

書いた人

okamotodaiki
旅して、写真撮って、記事にする人。旅が自分を最も早く成長させてくれるツールだと信じて止まない。好きなジャンルは自然・動物・郷土料理で、地元の徳島を拠点にしつつ全国を巡る生活を続けています。
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