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文化と共に味わう一杯―シンガポールで感じたお茶体験記

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お茶にはその土地や国の文化が溶け込んでいます。茶葉と紐づいた生産地の気候や特長はもちろんのこと、それを楽しむ茶器や共に食べるものの趣向、お茶にまつわる物語まで、すべてを楽しめるのが魅力です。

はじめて旅したシンガポールは、国独特の文化がわかりづらい国です。というのも、シンガポールには元来あった南国文化のうえに、英国、中国、インドなどさまざまな国の文化が塗り重ねられており、さらに近年は最先端の技術や未来志向を取り入れた建築物も増えているものだから、もう一言で表すことなどできないのです。それが、シンガポール。

そんなシンガポールのお茶文化は、どんな風なのだろう。それが気になって、いくつかシンガポールを象徴するお茶を楽しんできました。そこには、日本の家で楽しむお茶とは一味違った世界が広がっていました。

日々の喉を潤す甘い緑茶のペットボトル

シンガポールの緑茶は甘味を加えたものがスタンダードです。緑茶と言っても、日本の緑茶のような茶葉の持つ渋みはほとんど感じない味わいで、すっきりと爽やかに喉を潤します。甘さもべたべたしたものではないので、あまり違和感はありませんでした。平均30度の暑い屋外を歩いて喉が渇いたとき、ごくごくと飲める味わいでした。

甘い緑茶が苦手な方は、ウーロン茶や「Non Sugar」と書かれた緑茶を選択すると日本と同じ味が飲めます。もしも挑戦する心があるならば、ぜひコンビニエンスストアやスーパーで買ってみてください。

ちなみに、お茶を甘くする文化は決して珍しいものではありません。欧米では甘味をつけない緑茶のほうが少ないのだとか。渋いお茶を好むのは、意外と日本人らしい味覚なのかもしれません。

中国茶の伝統の楽しみ方は「香り」にこだわる

多国籍な人々の集うシンガポールでももっとも多い民族は中国の人々です。シンガポールの母国語は英語と中国語の二か国語で、食文化や生活様式のなかにも中国文化が溶け込んでいます。

そんなシンガポールだからこそ楽しめる本場の中国茶を味わおうと、チャイナタウンの老舗であるTEA CHAPTER(ティー・チャプター)に行きました。

TEA CHAPTERは1階に茶葉販売店、2階に茶館(カフェのようなスペース)を持つ店で、茶館にはかつて英国女王エリザベス2世が足を運んだという逸話もあります。

こちらの中国茶館でいただくお茶は、ただの一杯ではありません。中国茶に精通したマイスターが中国茶の正しい飲み方をレクチャーし、その味わい深さを教えてくださるデモンストレーションがついているのです。今回は烏龍茶でその体験を楽しみました。

約3分にわたるレクチャーのなかで興味深かったのは、聞香杯(もんこうはい)の使い方です。中国茶には香りを楽しむためだけの縦に長い茶器があるということだけは知っていたのですが、この香りも2度楽しむことができるのです。

一度お茶を注ぎ、まずお茶が入ったままで香りを感じる。それを茶杯に移し、空になった聞香杯を両手の温度で温めると、また香りが変わるから再度確かめてほしい、と言われました。「そんなちょっとしたことで香りが変わるの?」と半信半疑で吸い込むと、より広がった甘い香りが立ち上って、目が点に。

茶葉の持つ香りがとても繊細なものである一方、温度や入れられる茶器によって大きな変化を起こすことがわかりました。

その後、温度の変化と共に5煎ほどの味わいを楽しみました。小さな茶杯で、一口で飲めてしまう中国茶は、だからこそ純粋な煎じる回数による変化を観察できます。はじめは堅い印象もあった味が、徐々に開いて甘く丸く広がり、そして老いていくように落ち着く。そのグラデーションは見事なものです。

そうして堪能しているうちに、いつのまにか1時間以上のティータイムにうっとり浸ってしまいました。本気で香りに包まれるなら、時間をかけて、ゆっくりと。こんなティータイムって、なんて素敵だろう。中国茶の魅力をしっかりと記憶し、チャイナタウンを後にしました。

貿易文化が盛んなシンガポールだから生まれたTWG

シンガポールでお茶と言えば、多くの人が思いつくのがTWGでしょう。TWGは、シンガポール発のお茶専門店です。ラグジュアリーなブランド展開と幅広い茶葉の品ぞろえが世界中に多くのファンを擁し、優雅なティータイムを楽しめるサロンは行列ができるほどの人気です。

シンガポールはかつて英国の植民地支配を受けたのち、アジアと欧州の貿易中継地点として栄えた歴史があります。異なる文化を持つ人々が集まり、それぞれの食文化やスパイスを交えた結果、シンガポールには国境を超えた美食文化が生まれました。

TWGはその歴史を茶葉で振り返るような店です。ブランドロゴに記された「1837」の文字も、貿易拠点として栄えた年代を象徴として掲げたものです。

扱う茶葉の種類は紅茶、中国茶、日本茶と幅広く、そこに加えられるフレーバーも独創性のあるものが目立ちます。一つひとつの茶葉にはストーリーを感じさせるコンセプトが与えられ、どの国籍にも偏らないカラーリングとイラストで表されたパッケージが味わいに華を添えます。

文化の豊かさが茶葉のおいしさに直結する、と自ら発信しているようなTWGを、一度でいいから現地で楽しみたい。そんな思いで、マリーナベイサンズ内にあるティーサロンに赴きました。

開放的な空間で、すべてにTWGのロゴがあしらわれたティーポットでいただく一杯。シンプルなおいしさで安心させてくれる、まさに老舗の説得力を感じました。

ブティックでのショッピングも、「お茶を買う」という行為以上の体験を与えてくれます。種類豊富なお茶たちが天井まで並べられた空間は、入るだけで特別な気分にさせてくれます。

シンガポールはもちろん、インドや中国、フランスなど、それぞれの国をイメージして作られたお茶もあります。まるでお茶を通じて世界旅行をしているような気分になるほど、そのラインナップは多岐にわたります。

どんなお茶が好きかを店員さんに伝えると、関連するフレーバーや特徴を持つ茶葉を丁寧に教えてくださりました。あまりの数に迷ってしまったら、気軽に声をかけられるのもうれしいポイントです。

さまざまな国の文化を包括し、認め、それぞれの強みを育ててきたシンガポールらしさをお茶から感じられるのがTWGだな、と改めて感じました。

お茶から見えるその国の魅力

今回はじめて、お茶のことを考えながら旅をしました。もちろん、お茶以外の観光地や風景も楽しんでいますが、お茶のなかにその国の文化や歴史を想像しながら一杯を楽しむ時間は、まるで体のなかに香りや味と共にその国が記憶されていくようで、かけがえのない時間となりました。

シンガポールはふところの広い国だな、とお茶を飲みながら感じました。独自性のあるスパイスの香りも、伝統的な紅茶の味も、時間をかけて楽しむ中国茶の文化も、すべてがシンガポールのなかにあります。

他の国はどうなんだろう。どんな一杯が楽しめるんだろう。帰りの飛行機のなかで、想いを馳せました。お茶が好きだから見える旅行記を、いつかまた書きたいなと思います。

 

それではまた、旅の日まで。

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宿木雪樹(やどりぎゆき)

株式会社宿木屋代表取締役。ハーブティーをこよなく愛するライター。 日々お茶を飲みながら文章を書いている。 北海道札幌市在住。1989年生まれ。

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