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ヘルマン・ヘッセ「デミアン」をやわらかく読みくだいて紹介してみる

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「デミアン」はあるひとりの人が“確立する”までの物語

今の私たちにもつながる、あるひとりの少年の物語

「デミアン」の作者であるヘルマン・ヘッセは20世紀前半のドイツ文学者として有名で、名前だけ知っているひとにとっては「難しそう」という方もいます。もちろん、ふだん本を読まない方には読み慣れない言葉も出てきますが、決して難しいテーマを扱っているわけではありません

特に、今回ご紹介する「デミアン」は今を生きるひとでも共感する点が多くあり、疑問を投げかけてくれる作品でもあります。文字数もそこまで多くないので、手に取りやすいでしょう。

「デミアン」は、一言でまとめてしまうと「主人公ジンクレエルが自立するまでのさまざまな出来事と考えたこと」について語った一冊です。ただし、ジンクレエルが少年から大人になっていく過程で鍵となる友人がいます。それが“デミアン”です。

デミアン

デミアンは、夢想的でありながら現実的な意志をいだき、輝く星のような霊気と秘めた生気とをもっている謎めいた青年像である。「人間の使命はおのれにもどることだ」という命題を展開したこの小説は、第1次大戦直後の精神の危機を脱したヘッセ(1877‐1962)が、世界とおのれ自身の転換期にうちたてたみごとな記念碑ともいうべき作品である。

「デミアン」をおすすめしたい理由

「デミアン」をおすすめしたい理由は、「一人の人間が自立するために必要な要素は何か」という哲学的かつ大人になってから余計わからなくなりがちなテーマを、美しく、端的に伝えてくれているからです。

たいていそれは、デミアンをはじめ、ジンクレエルの出会った人々との会話のなかに出てくる言葉でまとめられています。

嫌われる勇気」は、アドラーの思想を哲人と青年の会話によって伝える構成がわかりやすく大ヒットセラーとなりましたが、「デミアン」も同様に、人生に活かせる学びが登場人物たちの会話から得られます

今回は、「デミアン」に登場する印象的だった言葉を抜粋してご紹介するとともに、その学びの深さをお伝えします。

世界を一変させる考え方と出会うジンクレエル

デミアンが見ている世界は裏と表がある

些細なことから金をせびられていた少年ジンクレエルのもとに現れた、デミアン。カリスマ性があり学校で浮いていた彼は、「カインの物語」をもとにジンクレエルにこのような話をします。

“「一般の人」というものは、いつだって自分につごうのいいもの、自分を正しいと認めてくれるものを望むんだ。(中略)勇気と節操を持っている人たちは、ほかの人たちから見ると、いつだって非常に気味の悪いものさ。”(ヘルマン・ヘッセ「デミアン」岩波文庫50p.)

“当たり前”について深く観察し、考えよ

聖書の中では一方的に描かれていた存在が、本当は別の捉え方もできるかもしれない。その発見は、ジンクレエルを驚愕させます。

この話をしたあと、ジンクレエルが「つまりカインは悪者じゃないの?」と訊くと、「そうでもあり、そうでもなしだ。」とデミアンは答えています。

この発見から、ジンクレエルはあらゆる“当たり前”について深く考えるようになります。その習慣が、その後のジンクレエルの人生に大きな変化を与えていくのです。

自分を見失っていたジンクレエルにかけられる言葉

自分のなかには、“誰か”がいる

デミアンに大きな影響を受け、さらには助けてもらった恩もある状態にもどかしさを覚えながら成長するジンクレエル。

数年ぶりに2人が再会したとき、ジンクレエルはデミアンへの反抗心を抱きながら酒を呑み、投げやりになります。そんなジンクレエルを見たデミアンは、静かに伝えます。

“ねえ、ジンクレエル。(中略)ぼくたちの心の中には、誰かがいて、その誰かが、なんでも知っているし、なんでもしようと思うし、なんでも僕たち自身より、じょうずにやってしまうんだ。”(ヘルマン・ヘッセ「デミアン」岩波文庫148p.)

その言葉を反芻して、ジンクレエルが心の中に見つける“誰か”は、他でもないデミアンでした。

誰にでもある経験ではないでしょうか。わからないことを諭す誰かがいて、それが大きい存在になると心の中に巣くい、ときに羨望の対象となり、さらに歪むと怒りすら覚える。

それを言語化されたことで、ジンクレエルはモヤモヤした感情を吹っ切ることになります。

自分の心の中の“誰か”を認識し、コントロールすることは、自立への第一歩だと感じます。

出会いを経て、ジンクレエルが見出す人生の意味

私たちが生きるうえで与えられた任務とは?

さらに成長したジンクレエルは、“つぎの認識が僕の身を焼いた”というほどの結論に達します。

“どんな人間にも、なにかの「任務」はあるが、自分でえらんだり、限定したり、勝手に管理したりしていいような任務は、誰のためにも存在してはいない。新しい神々を欲するのは、間違っている。世界に対して何物かを与えようとするのは、まったく間違っている。” (ヘルマン・ヘッセ「デミアン」岩波文庫219p.)

徹底的に自分を生き尽くせ

つまり、それぞれがそれぞれの「任務」を全うしようや、ということですね。ではその任務は何なのか?というと……。“真の天職とはただひとつ、自己自身に到達することだ。”と彼は断言します。“自己独特の運命を見出すこと”と、“徹底的に生き尽くすこと”が己の生きる意味だと締めくくります。

ハッと目が覚めるような一文ですね。自分というものと向き合い、それを生き尽くすことが何よりも人を自立させるものです。誰かに教えを求め、誰かのために生きるなどと言っているうちは自分の生を全うしていない。……けれど、この自分と向き合うということから、多くのひとが逃げてしまうものですよね。

だって、自分自身が一番見えないものですから。

他者と自分のポジションを教えてくれる「デミアン」

このように、「デミアン」には気付きの多い言葉が多く出てきます。これはほんの一部で、かつ私が胸を打たれたものです。読むひとによってグッとくる言葉は変わるので、ぜひご自身の目で、主人公ジンクレエルの変化をお楽しみください。

ちなみに、ラスト……については決して言いません。ただ、私は泣いてしまいました。なぜ泣いたかって、「そうだよね、自分と他者ってそうだよね」と、本当は気付いているけれど言葉にしなかった関係性が、きれいに描かれているからです。切ないけれど、一筋の希望やあたたかい光を感じます。

ヘルマン・ヘッセの「デミアン」、気になった方はぜひご一読を。

デミアン

デミアンは、夢想的でありながら現実的な意志をいだき、輝く星のような霊気と秘めた生気とをもっている謎めいた青年像である。「人間の使命はおのれにもどることだ」という命題を展開したこの小説は、第1次大戦直後の精神の危機を脱したヘッセ(1877‐1962)が、世界とおのれ自身の転換期にうちたてたみごとな記念碑ともいうべき作品である。

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